数井みゆき先生のアタッチメントコーナー
アタッチメントこぼれ話 #2
~赤ちゃんが親(養育者)に対して築くものがアタッチメント、その逆ではありません~
出産前後の話で、妊娠中のママに、「胎児への愛着を持ってもらわないと」とか、新パパへ「お父さんに赤ちゃんへの愛着を付けてもらわないと」などと支援的立場にある者が発言しているのを聞くことがありました。そのような発言は、新ママやパパに、赤ちゃんと自分との絆をしっかりとつけてほしいという意図なのでしょう。発言者は、アタッチメント関係を知らないわけではなくて、その人の中では、愛着(アタッチメント)の定義があやふやで、愛情、特別な思いなどの感情・気持ちを混ぜてしまっています。ただし、このような人の一部には、その「愛着」を明らかにボウルビーの「アタッチメント」のこととして、発言している人がいることも、知っています。専門的立場にある者には、親が子どもに対して築く関係はアタッチメントではないことを明確に理解してほしいと思いました。
アタッチメント理論では、小さい者が大人に対して向けるものがアタッチメント、大人が小さい人に向けるものがボンド(絆)と記されています。ボウルビーがそう書いています。耳にたこができている人もいらっしゃるかもしれませんが、アタッチメントは単純な愛情ではありません。不安を調整する機能です。だから、大人が子どもにアタッチメントを向ける、つまり、自分の不安の解消を求めることは役割逆転と言われて、子どものアタッチメントを阻害する最も重大な要因の1つになっています。新ママ・パパへの直接的な声かけよりも(プレッシャーになることもあるため)、支援者は新ママ・パパが赤ちゃんと絆を築けるようなかかわり方を伝え、こうすればあかちゃんは安心するよ、というような具体的な言葉を使いたいものです。これは、何も小さい赤ちゃんに限ったことではなくて、幼児でも児童でも、かかわり方の本質は同じだと思います。
アタッチメントこぼれ話 #1 ~secure(安心)とsafe(安全)の違いとは~
アタッチメント理論や研究において、「安心の基地」(secure base)や「安全な避難所」(safe haven)という言葉は、中心的な専門用語であると同時に、専門家だけが使う言葉ではなくて、日常的にも用いられるものです。今では、secure baseに安心の基地、という訳語を充てることで統一していますが、20年くらい前までは、“安全”の基地というように表現していました。変更した理由は、Bowlby(1973/2000)がこの2つの言葉が何を定義しているかということを書いた文章を見つけたためです。
Bowlbyが引用しているオックスフォード英語辞典によるとsecureという語は、心配や悪いことの生起に対する予感、不安、危機感から自由になることを意味するそうです。つまり、secureとは、感情に反映された世界に適用され、現実の世界には適用されないということになります。対照的に、safeの本来の意味は「傷ついたり損害を受けたりしない」ということです。したがって、それは感情に反映された世界ではなく、ありのままの世界、現実に安全かどうかということになります。
これらの用語を本来の意味で用いる例をあげると、「状況は十分に安全だったにもかかわらず、彼は非常に怖がっていました」、または、「状況は危険であったものの、班長の行動によって私たち全員は安心だと感じていました」などになるでしょう。つまり、secureは心理的な安心感で、safeは環境的に安全であることになります(ただし、ストレンジシチュエーション法での分類では、secureは安定型と訳します)。アタッチメントに関わることでは、このように安心と安全の意味を使い分け、それが何を指しているのかをきちんと理解することは大切なことです。
*Bowlby, J. (1973/2000). Attachment and loss:Separaion. (pp.182-183).
New York: Basic Books.
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